高崎高校剣道部OB会のホームページです。

2012年7月25日水曜日

英国剣道雑感(4)


7月半ばで大学は最終タームが終わり、夏休みに入りました。
 夏休みに入ったのをきっかけに、1週間のスコットランド旅行に行ってきました。これまでスコットランドは何度か訪れたことはありますが、今回の旅行の目的地はエジンバラやグラスゴーのような大きな街ではなく、スコットランドの北西に位置するスカイ島(the Isle of Skye)という島です。
 スカイ島はスコットランドでも最もスコットランドらしさが残っていると言われる人口1万人程の風光明媚な島です。山と湖を眺めながら、美しい海岸線をドライブすることが今回の旅行の最大の目的ですが、実はもう一つ別の目的がありました。それは20年前に知り合ったある一人の剣道家John Hepburn氏(錬士六段)との再会です。
 Hepburn氏は幼い頃に習っていた合気道の先生から剣道の存在を知り、以来、剣道の魅力にとりつかれ、剣道一筋に人生を歩んできた生粋のスコットランド人です。彼が剣道を始めた頃、スコットランドには剣道をする人はなく、彼は一人で竹刀を振り、本を読み、機会あるごとにイングランドや日本に出向いて剣道を学んだそうです。その結果、持ち前の剣道センスと努力で、めきめき力をつけ、英国チームの代表として何度も世界選手権に出場しています。私が20年前に剣を交えた時は、まさに彼が一番自信にあふれていた時期で、英国人とは思えない剣さばきだったことを今でもはっきりと覚えています。代表を退いてからは英国チームのコーチや監督も務めました。グラスゴーにある「大西道会」道場は、彼が創設したスコットランド最初の道場で、これまで何人も英国代表選手が輩出した英国屈指の道場となっています。また、2003年にグラスゴーで開催された第12回剣道世界選手権もHepburn氏が取りまとめ役として成功させた大会です。この大会は、日本が韓国との壮絶な戦いの末に優勝したことで、世界選手権史上でも最も記憶に残る大会のひとつと言われています。(大会後、NHKが日本代表の栄花選手を特集して制作した「一撃にかける」というドキュメンタリー番組を見た人もたくさんいるのではないでしょうか。彼の尽力がなければ、この番組は生まれなかったかもしれません。)
 さて、そんな彼も今は、一線を退き、都会の喧騒を離れ、スカイ島で小さなコーヒーショップを営んでいると聞き、今回のスカイ島での再会となったわけです。聞けば、スカイ島に来てからしばらく剣道から遠ざかっていたようです。それでも剣道への思いは絶ちがたく、最近になって、また少しずつ竹刀を振りはじめ、今ではスカイ島の小さな町で道場を開き、数名の若者に週1回剣道を教えているそうです。
 今回、残念ながら、彼の道場で稽古をすることはできませんでしたが、地元のパブで再会を祝し、ビールを飲みながら、20年前の思い出や剣道談義に花を咲かせました。
 歳月は流れ、すでに彼の髪も白くなっていました。しかし、話をする中で、剣道に対する彼の情熱が少しも衰えていないことを知り、同好の士としていつか再び剣を交える機会が訪れることを、そしてまた、スカイ島というスコットランドの小さな島に捲かれた剣道の種からいつか大きな花が咲くことを祈りつつ、スカイ島を後にしました。

2012年7月5日木曜日

英国剣道雑感(3)

4月から始まった英国生活も3か月となり、滞在予定の半分が経過しました。

 一般的にイギリスの4~6月というと、からっと晴れた日が多く、一年で一番いい季節と言われていますが、今年はこれまで3日と続けて晴れることがなく、毎日「曇り時々晴れ、一時雨」の天気を繰り返しています。隣に住むイギリス人も「今年は雨がよく降るなあ」と嘆いていましたが、それもそのはず、ニュースによると今年の4~6月の降水量はイギリスの観測史上で最も多かったようです。場所によっては洪水、落雷、雹の被害も報告されています。なにも今年に限って、そんな記録的な雨が降らなくても・・・と思いながらの生活となっています。

 さて、英国滞在のちょうど折り返し日となる6月30日・7月1日、ロンドンで「無名士道場」主催の「末野栄二先生剣道セミナー」が開催されたので、参加してきました。
 無名士道場はTerry Holt 氏(七段)を道場主とし、40年以上の歴史を持つ、イギリスでも最も伝統のある剣道クラブのひとつです。ロンドンにあるため、イギリス在住の日本人会員も多く、今回のセミナーも、当道場の会員で鹿児島出身の吉川さんという女性剣士(六段)の方が、末野先生の教え子ということで実現したようです。
 前回紹介した「樫の木剣友会」主催のセミナーも含め、日本人剣道家を招いての剣道セミナーはイギリスでもたくさん開かれているようですが、今回のセミナーは、末野先生(範士八段)という、剣道家ならばだれでもが知っている有名な先生のセミナーということで、イギリス国内だけでなく、ベルギー、フランス、オーストリアなどからもたくさんの剣道家が参加し、盛大なセミナーとなりました。
 講習そのものは、素振りから始まり、基本的な打突や応じ技の練習、そして最後は地稽古というオーソドックスなものでしたが、これまでに全日本選手権を含め、数々の大きな大会で優勝をされている末野先生の説明やお手本には、やはり言葉では表せない重みがありました。
 剣道をしている人なら誰でも理想とする剣道家がいるかと思いますが、私にとっては、末野先生はその理想とする剣道家の一人です。昭和54年の全日本選手権決勝での見事なメンを目の当たりにして以来、一度は稽古をつけていただきたいものだと思いながらこれまで剣道を続けてきました。その末野先生に稽古をつけていただく機会が、なんと30年以上経って、それも日本ではなく、遠く離れたイギリスで実現したということがなんとも不思議でなりません。
 憧れていた先生との稽古は、打てども打てども、抜かれ、返され、押さえられのわずか数分間のものでしたが、打たれてもなぜかうれしさがこみあげてくる、一剣道家のこれまでの思いが詰まった満ち足りた時間となりました。
 (集合写真:中央が末野先生、その左隣がTerry Holt氏。)
 参考:無名士道場ホームページhttp://www.mumeishi.co.uk/kendo